チベスナノート

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深谷賢治『解析力学と微分形式』第2章の個人的まとめ

第2章ベクトル場と微分形式

論理展開

回転や発散、勾配は、実は座標変換と相性が悪く不便である。相性がいいように工夫されたのが、微分形式である。

§2.1

今形式的にベクトル場を

{\bf W}=W^1\frac{\partial}{\partial x^1}+W^2\frac{\partial}{\partial x^2}+ \cdots

のように書くと、(x^1,x^2,\cdots)から(y^1,y^2,\cdots)へのベクトル場の座標変換は

{\bf W}\to{\bf W'}=W^1\sum_{i}\frac{\partial y^i}{\partial x^1}\frac{\partial}{\partial y^i}+W^2\sum_{j}\frac{\partial y^j}{\partial x^2}\frac{\partial}{\partial y^j}+ \cdots

となる。これを用いて、2次元平面上の発散の座標変換を考えると、

div {\bf W}\to div{\bf W'}=div {\bf W}+(\frac{\partial^2 y^1}{\partial y^1\partial x^1}+\frac{\partial^2 y^2}{\partial y^2\partial x^1})W^1+(\frac{\partial^2 y^1}{\partial y^1\partial x^2}+\frac{\partial^2 y^2}{\partial y^2\partial x^2})W^2

となり、明らかに不変でない。

 

§2.2

さて三次元空間上と一般の次元上でn次の微分形式とその間のウェッジ積\wedge、そして外微分を定義する。(定義は省略)

このとき任意の微分形式uに対し次が成り立つ。

d(du)=0

また逆に、df=0であるとき、f=duなる微分形式uが存在する。

これは、ベクトル解析で学ぶ公式や、ポテンシャルの存在の一般化になっている。

 

次に、微分形式の座標変換ともいえる「引き戻し」を定義する。「引き戻し」は、可微分同相写像\phi:U \to Vで結ばれた2つの空間U\subset \mathbb{R}^n,V\subset \mathbb{R}^mに対し、終域V上で定義された微分形式をその定義域Uに映し直す操作である。微分形式の引き戻しは、ベクトル場の座標変換と異なり違う次元の空間同士を結ぶことが出来ること、写像の終域から定義域に移すことに注意しよう。

\phiによって定まる引き戻しを\hat{\phi}と書くことにすると、次の性質が成り立つ。

\hat{\phi}(du)=d\hat{\phi}(u)

これは外微分が引き戻し(座標変換)不変であることを表す。

 

微分形式における形式的な記号dx^iは、関数f=x^iの外微分ともみなせる。これが微分形式の座標不変性のもととなっている。

例えば、次の座標変換u=x,v=x+yを考えたとき、微分形式では問題なくdx=duだが、偏微分(ベクトル場)は\frac{\partial}{\partial x}=\frac{\partial}{\partial u}+\frac{\partial}{\partial v}となってしまう。

 

§2.3

次に、平らな空間上の微分形式の積分を定義する。微分形式は引き戻し不変であったため、向きを変えない変換\phiに対し

\int u=\int \hat{\phi}(u)

が成り立つ、またこれを用いれば曲がった空間上での積分\mathbb{R}^n上に引き戻すことで定義できる。(引き戻し不変性から\mathbb{R}^nへの戻し方はなんでも良い)

また、ホッジスター作用素を定義しておく(省略)と、ストークスの定理が一般化される。

3次元空間のベクトル場は微分1形式とも2形式とも見なすことができる、ここで1形式とみなされるベクトルを極性ベクトルと呼び、2形式とみなされるベクトルを軸性ベクトルと呼ぶ、また微分3形式とみなされるスカラーを疑スカラーと呼ぶ。例として、電場は極性、磁場は軸性ベクトルである。

 

§2.4

対称性を記述するためには無限小変換と呼ばれるものが使われる。ここでは、ベクトル場と無限小変換の関係を考える。

 

ベクトル場{\bf V}({\bf x})が生成する1径数変換群とは、初期状態点p{\bf V}({\bf x})積分曲線に乗ってパラメータs分だけ移動させた点\phi_s(p)へ対応させる写像の全体をさす。

s分だけ移動させてからt分だけ移動させるのと、t分だけ移動させてからs分だけ移動させるのは同じ...のように考えていくと、単位元も逆元も存在するのでこれは群をなす。パラメータがひとつだけなので、この群は\mathbb{R}と同じである。

 

次に群からある空間への作用を考える。作用とは、群の元gと空間の元xの組に対して、別の空間の元gxに対応させるような写像のうち、単位元によって点は動かず、結合律

(g_1g_2)x=g_1(g_2x)

を満たすものである。

 

例えば、直交変換Aと3次元ベクトル{\bf x}の組からなる(A,{\bf x})E(3)という群をなすが、これの\mathbb{R}^3への作用を

(A,{\bf x}){\bf v}=A{\bf v}+{\bf x}

のように定めると、これは合同変換となる。(逆に、合同変換は常にこの形で書ける)ここからE(3)ユークリッド合同変換群と呼ばれる。

 

ここまでの内容を整理しよう。あるベクトル場が存在する時、その1径数変換群はパラメーターtに応じてある点を別の点に移したのだった。これを言い換えると、ベクトル場が群\mathbb{R}から\mathbb{R}^nへの作用を定めたということである。

 

逆に作用が分かっている時、それを生成するようなベクトル場は常に存在する。これをその作用に対する無限小変換と呼ぶ。

作用が分かるということは、tに応じて各点がどのように移動するかがわかるということであるため、その節ベクトルを考えてやればそれが無限小変換になるだろう。

一般にベクトル場{\bf V}で、その1係数変換群が群Gの作用に一致するもの全体をGリー環と呼ぶ。

 

次に二つのベクトル場の間の括弧積を定義する。[{\bf V},{\bf W}]はある点のベクトル{\bf W}({\bf p})とその点から{\bf V}({\bf p})に乗ってほんの少しだけ移動した点のベクトル{\bf V}({\bf p}+\epsilon{\bf V}({\bf p}))の差を表している。

書き換えると、次のようになる。

[{\bf V},{\bf W}]=\sum_{i,j}(V^i \frac{\partial W^j}{\partial x^i}-W^i \frac{\partial V^j}{\partial x^i}) \frac{\partial}{\partial x^j}

なお、{\bf V}{\bf W}が生成する1径数変換群を\phi_t,\psi_tとするとき、[{\bf V},{\bf W}]=0\phi_t(\psi_s(p))=\psi_s(\phi_t(p))と同値である。即ち{\bf V}から{\bf W}に乗り換えて移動するのと、{\bf W}から {\bf V}に乗り換えて移動するので同じ点に到着するということである。

 

E(3)の部分群のうち\mathbb{R}と同型、すなわちひとつのパラメータで指定出来てそれも群になっているものを考えよう。その代表は並行移動と回転移動である。これらはそれぞれ(A,{\bf x}){\bf x}Aに対応する。

剛体は常に同型であるため、その運動(初期位置からの変化)は合同変換をパラメータtで指定したものになる。ただし、剛体の運動では鏡映反転はしないため、ASO(3)の元となる。つまり、剛体の運動はSO(3)と3次元ベクトルの組(R(t),{\bf v}(t))によって指定できる。

 

感想

物理屋にすると記号がいかつくてウッとなりますが、意味だけ追っていけばそんなに難しくはないかなという感じです。引き戻しはよくわかりませんが、どうも自然な概念らしい。