チベスナノート

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深谷賢治『解析力学と微分形式』第1章の個人的まとめ

第1章:ユークリッド空間上のハミルトンベクトル場

論理展開

§1.1

古典的な世界像においては、ある瞬間における物理状態が決定されれば次の瞬間における状態も決定される。即ちある瞬間における物理状態の変化の割合はその瞬間の状態によって記述される。これを数式で書くと

 \frac{d{\bf x}(t)}{dt}={\bf V}({\bf x},t)

となる。

この時、最も簡単な形は {\bf V} が時間によらない、即ち次の自励系の時である。

 \frac{d{\bf x}(t)}{dt}={\bf V}({\bf x})

この時、解{\bf x}(t)をベクトル場{\bf V}({\bf x})積分曲線と呼ぶ。

さらに自励系の中で最も簡単な形は、

{\bf V}({\bf x})=grad\,f({\bf x})

のようにベクトル場がある関数の勾配として与えられている時だろう。

しかし、この勾配ベクトル場に対しては、解{\bf x}(t)が周期解ならば必ず定常解、すなわち時間に依存しない解になってしまうという著しい特徴がある。惑星の運動などを考えてみても分かるように、これは明らかに現実の系を表現しきれていない。

 

§1.2

そこで次に単純な勾配ベクトル場を90度回転させた形を考えてみよう。二次元平面上ならばベクトル場は

{\bf V}({\bf x})=(\frac{\partial f}{\partial y},-\frac{\partial f}{\partial x})

となる。これをハミルトニアンf({\bf x})に対するハミルトン・ベクトル場と呼ぶ。

また、この下での方程式はハミルトン方程式と呼ばれる。ハミルトン方程式はきちんと周期解を表現できる。

また、

q=x,p=m\frac{dx}{dt}

として、ハミルトン方程式を書き換えると1次元のニュートン運動方程式に一致し、ハミルトニアンは力学的エネルギーになる。

ハミルトン系においては同一の積分曲線上において、ハミルトンニアンがtによらず一定であるという著しい性質がみられる。ハミルトニアンはエネルギーだったので、これは力学的にはエネルギー保存則を表わす。保存量の存在は方程式の解を求める上で重要である。

 

§1.3

二次元平面上の運動においては、四次元空間上のベクトル場とその積分曲線を考えることになる。この場合でも同様にエネルギーが保存する。エネルギーのように同一の積分曲線上において、tによらず一定な量のことを第1積分と呼ぶ。即ち、エネルギーは第1積分である。

一般に方程式を解くのに第1積分が1つでは不十分であり、我々はエネルギー以外の第1積分を見つけ出す必要があるが、第一積分機械的に求めるアルゴリズムはなく、一般には十分な量の第1積分がない例もある。

第1積分の例として、中心力場に対しては角運動量A({\bf q},{\bf p})={\bf q} \times{\bf p}が保存することが知られている。

 

§1.4

ハミルトン方程式を最大最小問題と見ることも可能である。これをしっかり議論するためには無限次元における2つの元の「距離」を定義する必要があるが、それには多くの困難を伴うため、ここでは重要な結果のみを述べる。

作用

S=\int_{0}^{1}L({\bf x}(t),{\bf \dot{x}}(t)) dt

に対し、ある{\bf x}(t)がSの極値を与えることと、オイラー-ラグランジュ方程式

\frac{\partial L}{\partial {\bf x}}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial {\bf \dot{x}}}=0

を満たすことは同値である。この結果は変分原理などと呼ばれる。なお、Lはラグランジアンと呼ばれる。

なお、

L=\frac{|{\bf \dot{x}}(t)|^2}{2}-V({\bf \dot{x}}(t))

とおくと、オイラーラグランジュ方程式運動方程式と一致する。

 

qとpからなる空間を位相空間と呼び、解析力学の基本的な考え方では、位置と運動量を対等に扱う。これにならって、qとpを独立に動かす変分原理を与えよう。ここでは、ハミルトニアンが時間に依存する場合も考える。

\mathcal{H}=\int_{0}^{1}({\bf p}(t)\cdot{\bf \dot{q}}(t)-H(t , {\bf q}(t),{\bf p}(t)))dt

なる量 ({\bf q}(t),{\bf p}(t))極値をとることと、 ({\bf q}(t),{\bf p}(t))がハミルトン方程式を満たすことは同値である。

ここで我々は、pとqの対称性からt=0,1におけるp,qの値を共に境界条件として要求するが、これは自由度に対して明らかに多い。したがって、ある初期条件条件に対しハミルトン方程式を満たす解が存在しないこともありうる。

 

以上で述べた二つの変分原理の関係について述べよう。ふたつの座標変数(x_1,x_2,\cdots,x_n,y_1,y_2,\cdots,y_n),(q_1,q_2,\cdots,q_n,p_1,p_2,\cdots,p_n)間に次の関係

q_i=x_i,p_i=\frac{\partial L}{\partial y_i}

があり、これが可微分同相、すなわち

det(\frac{\partial ^2 L}{\partial y_i \partial y_j}) =0

が満たされるとき、

H={\bf p}\cdot{\bf y}-L

と定めることで2つの変分原理は同値となる。

このとき、LとHの関係はルジャンドル変換と呼ばれる。

 

感想

こう見るとハミルトン方程式はなかなか自然に見えてきますね。

復習にちょうどいいです。