チベスナノート

仙台で物理やってます。更新情報はtwitterをご覧ください。

芥川龍之介『文芸鑑賞講座』 読書感想文

論理展開

文芸的素質が無ければ、如何な傑作を読んでも無意味である。ただ、文芸的素質の有無はハッキリと決定できるものでは無いので、自身には文芸的素質が自惚れてしまうのが幸福である。

文芸的素質に加え、訓練も必要である。訓練によって鑑賞の程度が深くなれば、人生が豊富になり、創作にも利益になる。創作は鑑賞の上に成り立つからである。

どういう風に鑑賞したら良いかという点について。創作者は自身の生命を託しうる言葉を使うため、鑑賞者はまず英語や古語など、その言葉を知ることが大切である。そして、鑑賞の際には認識的に理解すると共に情緒的にも理解することが必要である。このとき、批評や前知識に惑わされず、なるべく素直に読むことが必要である。素直に読んで、何の感銘も受けなかった場合は1度自身の人間的成長を待つことが求められる。

細部の美しさも注意深く鑑賞することも必要である。細部を見た上で大局の流れも見失ってはならない。大局を見る際、作品内の出来事や人物を我々の身の上に移してみなければいけない。ここでも人間力が求められる。

何を読めば良いかという点について。傑作,特に古典的名作を読むべきである。古典は簡単に価値を失うことは無く、良い物に親しまなくては感性が衰えていく。

最後にどういう議論を参考にすれば良いかという点について。これは作家達を参考にするのが良い。作家でなければ読み取れない微妙な言が多いからである。また、古典的な議論や、文学以外の芸術も同様に参考になる。

 

感想

凄まじいものを読まされた。今年ももう年の瀬だが、2023年どころかこれまでの人生で読んできたものはなんだったのだろうかと内省させられる。

約10000字ほどの文章だが、その全てが正鵠を射ていて、芥川先生が100年の時を超えて私に説教しに来たのではないかと感じられた。特に細部と大局を共に注意深く鑑賞すること、手当り次第読むのではなく、傑作を手に取ること、そして素直に読むことは、私が長い間失念していた価値観である。

また人間的成長が鑑賞に必要であるということ。これは私の中で因果が逆であった。もちろん優れた作品が人間的成長を促すこともあるかもしれないが、ウェイトを置くべきは現実世界そして自身であると再認識させられた。

心の訓戒として、刻んでおこうと思う。

 

心の師に出会ったときの衝撃とは、このようなものだったのか