論理展開
1.流体の運動を数式で表す
隙間なく空間中を占有し、決まった形を持たず、力を加えると容易に変形する気体や液体をまとめて「流体」と呼ぶ。流体力学はこの運動を扱う学問である。
流体の運動方程式の導出は、流体を「流体粒子」と呼ばれる微小部分に分割し、そのそれぞれにニュートンの運動方程式を適用することで行う。
ここで、以下の三つの点に注意が必要である。
a,流体の運動の追跡は、全ての流体粒子を区別し、そのそれぞれの運動を追跡することで行う。
b,流体粒子間の相互作用を応力と呼び、外力と区別して運動方程式に明記する。
c,流体粒子の質量は保存する。
すなわち、を応力、を外力として、
が基本形となる。
以上の3つの点は、以降で詳しく議論する。
2.オイラーとラグランジュの関係
前章で述べた、流体を無数の流体粒子に分割し、それを追跡することで解析する方法をラグランジュ的方法と呼ぶ。
一方で、空間の各点における流体の物理量を調べる見方をオイラー的方法と呼ぶ。オイラー的方法では流体粒子は出てこない。
2つの方法では、独立変数が異なる。オイラー的方法では、各点各瞬間の物理量を調べるので、独立変数はとなる。一方、ラグランジュ的方法では、流体粒子の区別のため、その初期位置を指定し、それに乗って物理量を調べる。ある流体粒子が持っている物理量が時間的にどう変化するかを見るわけである。すなわち、独立変数はとなる。ここで、は初期位置を表す。
さてここで、流体粒子の考え方は便利だが、初期位置を独立変数にするのは不便すぎる。 そのため我々は、慣用的に「流体粒子は使うし、それに乗って物理量を調べるが、独立変数は」というハイブリッドスタンスをとる。
流体粒子は移動しているため、ある流体粒子の持っている物理量Aの変化をを変数にとって表すと、この移動による変化も勘定に入れなければならず、
となる。は考えている流体粒子の速度である。これをラグランジュ微分などと呼ぶ。
なお、右辺の後半3項を移流項と呼び
などと書くことがある。
3.連続の式
第1章cの内容を考えよう。流体粒子の質量が変化しないということは、
が成り立つということである。ここで、流体の密度をとして、を代入して変形すると、
となる。これを連続の式と呼び、質量保存則に相当する。
これより、運動中密度変化がない「非圧縮流体」では、連続の式はより、
となる。
ともかける。
4.オイラーの運動方程式
第1章aの内容を踏まえ、運動方程式を導出しよう。
応力には、面に対して垂直な法線応力と平行な接線応力がある。また、流体粒子にかかっている応力は、その合力を考える。すなわち、隣の流体粒子から力を受けていても、その合力が0であれば応力0と考える。
接線応力が0となるような理想的な流体を「完全流体」と呼び、これは流体の粘性を無視することに等しい。
以下、しばらく完全流体を考える。
法線応力は、圧力の勾配に等しいことが簡単に示される。これより、流体の運動方程式は単位体積あたりに変更して、
となる。ここで、は単位体積あたりに働く外力である。この式を「オイラーの運動方程式」と呼ぶ。
さて、流体の運動を完全に解析するとは、何が分かることだろうか。ひとつは各流体粒子の位置である。初期状態がわかると仮定すると、これは各流体粒子の速度がわかれば積分することで求められる。他には、密度や圧力、エントロピーや温度などの量が必要である。しかしながら、熱力学からこれらの量は2つがわかれば残りも求まることが知られている。よって、の都合2種類の量がわかれば良い。
よっての5種類がわかれば良く、そのためには5本の式が必要である。我々は既に連続の式と、オイラーの運動方程式(各成分で3本)の4本の式は得ている。
残りの1本は圧力と密度の関係を与える熱力学的な関係式であり、これは個々の流体の特徴を表す。これを状態方程式という。状態方程式は流体力学の範囲では導出されない。
状態方程式としてよく用いられるのは、圧力が密度のみに依存する()というものである。この仮定をバロトロピー性と呼び、これを満たす流体をバロトロピー流体と呼ぶ。
バロトロピー流体では、圧力関数Pなる量を
と定義することが多い。
境界面の方程式を
とした時、ここにめり込まないという条件から、境界面上にある流体は
を満たさなければならない。これが完全流体の境界条件である。
なお、粘性流体の境界条件は、境界面上の流体粒子は境界面と同じ速度で動くというものである。
5.ナビエ・ストークスの式
粘性流体の運動方程式は、オイラーの方程式の右辺に接線応力を加えた形になる。この導出は一般的な運動方程式を用いたかなり煩雑なものである。(応力は、x面に対してy方向に働く力…のように9個出てくる。煩雑!)
結果的に、非圧縮ニュートン流体(粘性応力が速度の1回微分に比例するような流体)の運動方程式は、
となる。これをナビエ・ストークスの式という。ここで、は粘性率と呼ばれる量である。
6.流線と流跡線
各瞬間において、速度ベクトルを接線に持つような曲線が引けるはずである。これを流線という。接線は2本以上存在しないので、流速が0となる点以外では流線は交わらない。この点はよどみ点と呼ばれる。
流線の線素ベクトルと、各点の速度は平行なので、流線の方程式は
であたえられる。
ある場所で適当な閉曲線を考えた時、流線は交わらないので、この閉曲線上を貫く流線群は管をなす。これを流管という。
流体粒子の時間発展を考える時、その軌跡を流跡線という。この方程式は速度の定義より、流体粒子の変位を[tex:d{\bf x}]としたとき
と与えられる。
流線と流跡線は明らかに異なる概念である。流線は各瞬間に対して定められているが、流跡線はそうではない。流体の速度場が時間とともに変化する時を考えればわかりやすいだろう。
7.渦度と循環
速度場の回転
を渦度と呼ぶ。
渦度0の流れを渦なし流れ、渦度が0でない流れを渦あり流れと呼ぶ。渦なし流れのとき、ベクトル解析の公式から
なるスカラー関数Φが存在する。Φは速度ポテンシャルと呼ばれる。
流線、流管の渦度版を渦線、渦管とよぶ。
運動方程式に回転を作用させることで、保存力下であれば次の渦度方程式が得られる。
これより、初め渦度が0であればその後もずっと0であることがわかる。これをラグランジュの渦定理と呼び、渦ありと渦なしを区別することが有用な理由である。
閉曲線Cに対し、
を循環と呼ぶ。
同一の渦管を一周する任意の閉曲線に対し、循環は一定であることが知られている。
感想
卑近な現象に興味がわかない質なので、流体力学は長いことノータッチでしたが、理論的なところは美しいですね。ただ、仮定がめちゃくちゃ多いので「今何を仮定しているか」、「その仮定は妥当か」を常に考えないといけないのが難しいところです。