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砂川重信『物理テキストシリーズ4 電磁気学』の個人的まとめ

 

 

論理展開

具体例や式計算などを省いて論理の流れだけを追っていきます。

 

 

1章

1章の目的はクーロンの法則を近接作用的な形に書き換えることである。

 

実験事実として点電荷のクーロンの法則を認める。

電荷密度やデルタ関数を考えることでこれを拡張。

ステラジアンを考えることで積分形のガウスの法則を導出する。

1点の電場はその近傍にある電場の影響を受け連続的に決まることを表すために積分形のガウスの法則を微分形のガウスの法則に書換える。この過程でガウスの定理を使う。

ストークスの定理を求めて、線積分が経路によらない条件を導出し、静電場がその条件を満たしていることを確認する。

数学的な変形により電場を静電ポテンシャルで表記する。

上の2つの静電場を規定する式からポアッソンの方程式が得られる。これを解くことで静電ポテンシャルを求め、電場が得られる。(このとき、導体表面の電位が与えられて、電荷分布自身をも決める問題もある。これは境界値問題と呼ばれる。)

 

導体に電荷が存在する時、その導体はエネルギーを持っていると言える。しかし、ファラデー流に言うと、このエネルギーは「電場の発生によって生じた空間のエネルギー」である。

この空間のエネルギーをポテンシャルとみて力を求めると、空間全体に力が満ちていると考えられる。これがマクスウェルの応力であり、これはテンソルとして空間の各成分が入り交じった形で書かれる。

 

これまでの議論は真空中を仮定してきたが、誘電体中では誘電率電束密度を利用することで真空中と同様に理解出来る。誘電率は等方性がない時テンソルとして表されるが、これは現象論的だ。

 

ポアッソン方程式はクーロンの法則の電場の定義式の近接作用的な形、応力はF=qEの近接作用的な形になっている。

 

2章

 

電流の定義を調べる。

定常電流は保存する。…①

オームの法則を実験事実として認め、電流と電位の関係式を導き、電流と電場の関係を求める。

エネルギー保存則からジュールの法則を導く。…②

①②より、キルヒホッフの法則を得る。

電束密度と電流の間の類似性より、電荷分布のない空間での静電場と導体中の静電場が同一の方程式で表されることを導く。これを利用した電解槽法の利点を知る。

 

静電場の方程式と定常電流の方程式の一致はオームの法則を仮定したことにある。通常、動く電荷は磁場を発生させ、電荷はその影響も受ける。しかしながら、オームの法則はその磁場の影響を無視して良いと主張しているために、運動の様子が時間変動しない定常電流の理論は電荷が乗った静電場として理解される。

 

3章

電流が方位磁針の針を動かし、他の電流に力を与えることが磁気的現象の発見である。

電流は磁束密度を作り出し、磁束密度は微小電流に電流にアンペールの力を与える。この力はミクロに見ると移動する電荷に作用するローレンツの力である。

逆に、電流が作る磁束密度はビオ・サバールの法則に従う。ただ、電流素片なるものは存在しないことには注意すべき。磁束密度は数学的変形でB=rotAとベクトルポテンシャルで表せる。

アンペールの力とビオ・サバールの法則を使うと、定常電流間に働く力がわかる。なお、基本単位のアンペアはこれを用いて表される。磁気的現象への深い洞察は、電磁波の存在や特殊相対性理論の発見の契機となる。

ベクトルポテンシャルの存在により、磁場に関するガウスの法則が得られる。また、数学的変形で微分系のアンペールの法則を得る。ふたつの微分形の法則を組み合わせると、ベクトルポテンシャルの発散が0と仮定して、ポアソン方程式と同じ形の法則を得る。方程式の解は確かに発散が0となる。この解からビオ・サバールの法則が得られ、以上ふたつの法則が基本法則とわかる。

ストークスの定理ガウスの定理を用いて基本法則は積分系にもできる。

磁性体は外部から磁場をかけることで磁束密度を増大ないしは減少させる。増大させるものを常磁性体、減少させるものを反磁性体といい、物質内部の分子電流の向きが揃うことで起こる。

さて、円形電流である分子電流の話が出てきたが、小さな円形電流が遠方に作る磁場は電気双極子の作る電場に酷似している。これを元に、円形電流を仮想的な磁荷の双極子と捉えることが出来る。

磁性体の影響も加味して、透磁率を導入して、磁場の強さを考えられる。磁荷の存在により、電荷の時と同様に磁荷に関するクーロンの法則、磁位やラプラス方程式が得られる。

電荷保存則を考えると、アンペールの法則は時間的に変化する磁場では成り立たない。そこで、電束密度の時間偏微分である変位電流を加えることでその問題は解決され、これをアンペール・マクスウェルの法則という。

 

4章

ファラデーは電流が磁気を産むなら、磁気も電流を産むはずだと考え、時間変化する磁場は電場を産むという電磁誘導を発見した。電流は電場の上を走る電荷だったので、磁束変化は電場を産むことと読み替えられる。アンペール・マクスウェルの法則の発見は、電磁誘導との対称性からも妥当だとわかる。

一方で、一定の磁場の中をコイルが運動する時に電場が生じ、電荷に力が加わる現象はローレンツ力そのものであり、これより比例定数が1と定まるものの、なんら新しい発見ではない。

 

5章

さて、長い道のりを経てついにマクスウェル方程式を得た。

  1. divD=ρ(電場のガウスの法則)
  2. divB=0(磁場のガウスの法則)
  3. rotH=i+∂D/∂t(アンペール・マクスウェルの法則)
  4. rotE=-∂B/∂t(ファラデーの電磁誘導)

この方程式系の未知数の数は12個であり、方程式は8本である。ここで、現象論的にDとE、BとHの関係を調べることで未知数は6個に減る。また、1と2は初期条件に過ぎないので(?)、未知数と方程式の数は一致する。オームの法則は現象論的な法則に過ぎないことに注意。また、力学との接点になるローレンツ力はマクスウェル方程式には無い。

電磁場のエネルギーは1/2(D・E+B・H)の積分で与えられる。また、電磁波のエネルギー流出はポインティングベクトルで求められる。

電磁場の運動量はポインティングベクトルの積分で得られる。

今、2と4と数学的な事実を用いることで電磁ポテンシャルが考えられる。電磁ポテンシャルには任意性があり、ゲージ変換と呼ばれる。さらに、これを用いることで対象なマクスウェル方程式ローレンツ条件を満たすような方程式系に変形できる。

 

6章

第2章で定常電流についてを考えたが、マクスウェル方程式の立場から見ると実際には磁場の影響も考えなくてはならない。多くの場合、オームの法則が問題なく成り立つ。アンペールマクスウェルの法則より、角振動数が小さければ、変位電流は伝導電流に比べ充分小さく無視できる。このような伝導電流を準定常電流と呼ぶ。ここで、電荷保存則より起電力のない場所では電荷密度は0となる。

いま、2つの閉回路を考えると、自己誘導と相互誘導という、2つの逆起電力が発生する。ここで、このふたつの逆起電力は電流の1階微分(電荷の2階微分)に比例するので、回路方程式は2階の微分方程式となる。この微分方程式の様々な解法については、工学に譲ろう。

 

7章

自由空間において、マクスウェル方程式より波動方程式が得られる。これにより、電磁場が波として伝わること、さらにその速さが光と同様なこと、そして光が横波であることが確かめられる。マクスウェル電磁気学の決定的な勝利だ。さらに、電磁場のエネルギーや運動量も5章に基づき求めることが出来る。

自由空間でない場合、電磁ポテンシャルを用いて考えることになる。静電場のときと同じような形をしているだろうという物理的考察から、先進ポテンシャルと遅延ポテンシャルが得られる。

以上を用いて、電気双極子から放射される電磁波を求める。鬼のような計算を乗り越え、放射される電磁波が得られる。これを用いると、エネルギーやその方向分布も求まる。

電荷電荷分布を代入することで点電荷は加速される時に加速度に直交する方向に電磁波を放射することを得る。電磁波の放射はエネルギーの出入りを伴うので、加速される粒子には減衰力が働く。

最後に、これらを用いてラザフォードの原子模型について考察すると、電子はやがて原子核へと落ちていってしまう。これは実験事実と反する。すなわち、ここが古典電磁気学の限界であり、ここより先は量子力学という新たな分野の支配する世界になっている。

 

 

 

 

感想

全体を通しての感想。

 

やっと読み終わって記事にまとめられたなと思いました。この記事を作ったのが5月2日、最終更新日が10月12日、(9月頃には読み終わってはいたのですが)おおよそ半年間この本と格闘していたことになります。月日の経つのは早いものです。

初めてゼミに使った本、かつ初めて購入した本なので、思い入れも強いです。宝物です。

 

内容に関しては、必要十分が詰まっているなと思いました。初学者でも腰を据えて読めば読めるなって感じです。ただ、(私はどんなことであれ、「0冊目」があると良いよなと思っているので、)電磁気学を学ぶ時は同じ砂川先生の『考え方』なんかを読んでもいいかもしれないと思いました。

入門書として同じく挙げられることの多い『物理入門コース』(ウチの大学の講義ではクラスによって指定教科書が違いました。)に比べると、内容はやや高度です。レイアウト的にもこっちの方が硬派な印象。

この後は砂川先生の『理論電磁気学』なんかを読めたらいいなと思ってます。あとは演習あるのみ。

電磁気学全体として言うと、力学よりも圧倒的に難易度が上がったなと思いました。ベクトル解析が辛い。さらに、力学が運動方程式から出発するのに対してマクスウェル方程式が登場するのはこの本だと第5章とかなり後半です。また、マクスウェル方程式自体も偏微分方程式で意味が掴みにくいです。

第5章から一気にハードルが上がるなとも思いました。マクスウェル方程式を使う分、楽しさもありつつも、物理的な意味が見えにくくて大変。特に双極子放射!

 

この文を書いている時点では、まだ大学の電磁気学の講義は始まっていませんが、指定教科書がこれなのでたまに追記していくことになると思います。論理展開と感想だけじゃなくて、要素を増やして行けたら良いなと思います。やっと整備中が外せる!!

 

 

私の「大学の物理」はこの本からスタートでした。